フォト・エッセイ その10
 
キム・チョー・シューズ Kim Chow Shoes.

  ダウンタウンにある老舗のキム・チョー・シューズが閉店することが、ホノルル・アドバタイザーのヘッド・ラインで電子メールに配信されて来た。ハワイの歴史がまた一つ、ひっそりと消えようとしている。ハワイのBody Shopも同オーナーが経営していたが、これらもすべて閉店とのことだった。

 まだハワイ初心者だった頃、ガイド・ブックに紹介されていたこの店を訪ねるために、市バスを乗り継いでダウンタウンへと向かった。まだ再開発もそれほど行われていないダウンタウンには、地方都市特有の気だるさと治安の悪さが少なからず感じられた。フォート・ストリート・モールのキム・チョー・シューズの隣には今でこそ超高層のオフィスビルが立ち並んでいるが、当時はさえない安物ばかり扱ったデパートだった。歩いている人も今と違ってどこか危ない、怪しさを秘めた人たちが多かった。ホテル・ストリートとの交差点には定職の無い暇を持て余した人達、あるいはリタイヤしたお年寄りたちが佇んでいた。ハワイ初心者が心細く感じて、そのように見えただけでは無かったような気がする。

 キム・チョー・シューズは運良くバーゲンセールを行なっており、安売りされていたリーボックのクラシック・ランニング・シューズに出会った。何時間か履いて分かったことだが、今までと異なり疲れにくい靴だった。それ以来、スニーカーは常にこのランニング・シューズを買うことにしている。普段よりも余計に歩くハワイだが、もしこの靴との出会いが無ければ足の疲労が原因で行きたい所にも行けなかったに違いない。そう言った意味でキム・チョー・シューズはハワイ・ライフの原点の一部かもしれない。

The Honolulu Advertiserから引用

 

93年続いた老舗靴店

孫はROBINSのオーナーとして活躍

 

宇宙飛行士ではありません(^^ゞ

 

 何年か後に周辺の一大再開発が行なわれたが、キム・チョー・シューズだけが反対したようで新築の高層ビルの一角がえぐれていた。そこに隣との境目をぶった切った形でキム・チョー・シューズが今まで通り店を構えており、老舗の心意気が感じられたものだった。アメリカ本土からのアウトレット・ストアがハワイにも出来て以来、品揃えと価格の両面からランニング・シューズはもっぱらそっちで買うようになってしまったが、ダウンタウンを訪れた際には必ずキム・チョー・シューズの様子を見に行っていた。 

  キム・チョー・シューズのことはかつて別のエッセイで触れたが、93年の歴史に幕を閉じようとしているとの知らせはまさかと思ったが、やっぱりと言う気持ちもあった。ハワイの老舗がアメリカ本土から押し寄せる巨大アウトレットに飲み込まれて行く様を幾つも見て来たが、キム・チョー・シューズもその例外では無かった。追い討ちを掛けたのが2001年9月11日のニュー・ヨークのワールド・トレード・センターにおけるテロだった。観光客が激減したハワイではホテル、エア・ライン、観光産業で大幅なリストラ、レイオフが行われ、これらに依存するレストラン、物販なども二次的影響を受けていた。

 アメリカ経済を一瞬のうちに混乱に陥れたテロはハワイの老舗をも叩きのめしてしまった。炭疸菌による汚染の拡大、ニュー・ヨークにおけるさらなる航空機事故は日本人観光客をますますハワイから遠ざけるように作用したことは否めない。

 ハリケーンには慣れている南の島だが、ハワイに対する経済の風当たりは治まる気配が当分なさそうだ。ちょっと海外に出掛けたいと感じられるような時が早く訪れることを願っている。

 その後キム・チョー・シューズの創始者の孫がアラ・モアナ・ショッピングセンターの靴店「ロビンズ」の新しいオーナーになったことが伝えられた。店の名前こそ変わってしまったが、チャイナ・タウンの老舗の香りは引き継がれていると思うと何だがうれしく、華僑のビジネスに対するしたたかさを改めて感じた。

(本文は2002年閉店直後に執筆し、今回web upに際して若干手直しを加えた。)

(クリックすると拡大)

 

愛用しているリーボックの各種クラシック・ランニング・シューズ

一つ前に戻る